エルの死

 ベアデッド・コリーのエルが死んだ。我が家の末娘にも等しかった。長い毛で目すらも隠れていて、それでも家中を飛び回っていた。新築の家の床や壁は彼女の爪痕だらけになっている。家族の会話を盗聴するかのように必ずどこかで聞いていて、僕達の行動をいつも予知していた。外出するときは、真っ先に玄関に出てきていたし、悪口を言うとしばらくは姿を現さなかった。10年足らずの短かい一生だったけど、その存在は大きかった。
 もうすぐ春。雪解けの山の中、乾ききっていない汚れた道、まだ人影の多くない日曜日の公園の朝。全ての光景の中にエルが存在していた。エルや他の犬達も加わっての食事の時間帯。ちょっと席を立った間に、食卓からおかずが消えていた。誰がとったのかすぐ分かった。エルだけがどこかに消えていたからだ。犬達4匹の中で一番体が大きく、唯一の女の子。そして甘えっ子で一番の怖がり屋さんでもあった。じっと顔を見つめると、恥ずかしいのか必ず目をそらした。
 エルがこの世に僕達と同じように存在していたことを、僕の心は知っている。エルが悲しみ、喜び、そして僕達と同じように幸せを求めていたことも知っている。エルの瞳の中の僕達。それはエルの心の中の僕達の姿だった。彼女の向かった天国が、僕達の天国と同じであることを、今、僕は本当に願っている。