秋の追憶
学生時代から好きだったドビュッシーの亜麻色の髪の娘。いまだにLP版で聞くことがある。ジャケットの絵に色々な思い出が残っているからだ。…静かに揺れている髪の毛。遠くに見えるプロバンスの山並み。娘が見つめている私は、一体どこからきたのだろう…。ジャケットの片隅にメモが残されている。多分、大学一年生の秋だったと思う。背景のプロバンス地方の風景と、麦わら帽子を被ってこちらを見つめる少女の視線がすごく印象的で、僕はしばらくそのジャケットを机の上に飾っていたはずだ。ジャケットの娘に恋したのかも知れなかった。
曲の流れに浸りながら、僕は日常の業務の淀みが残る、頭の中を洗い流そうと試みる。いくつかの不正行為の中で取りつぶされる病院。行き場を失う多くの患者。不正行為を取り締まるお役所業務。医療の現場を、より改善したいと願う医師としての保健所長の立場。無機的な音を響かせる法律用語。現実の中にもっと優しい言葉を導入したいと願う、別な文学的言葉。
あの日と今日には、違いがあるのだろうか。僕はジャケットの娘が、今もその微笑みを向けていることに気付く。…時間という言葉の裏に隠れてしまったあの日。今日、あの日の僕に帰ろう…。ジャケットの余白に、今年の秋、僕は久しぶりにメモを残した。