新雪の中に

 
ふと思い立って犬達と近くの山に向かう。三月には珍しく粉雪が降り積もっている。朝日にきらめく小さな雪片。きらめきの中を犬達は無心に得意げに進む。遠い日の幻影が網膜の奧に走馬燈のように流れ出す。家族や仲間達と雪の中を歩き回った幼い頃の日々。僕は限りなく無心だったはずだ。年と共に心の中に次第に降り積もったきた塵。ときどき舞い上がる塵で自身の心が見えなくなってくる日々。
 犬達には寒さはない。引き紐を離してやると四匹それぞれに雪の中を走り回る。しばらくすると柴犬を除いて三匹の洋犬達は、お互いに誘い合うように一列になって道を進み出す。遅れだした僕を気遣ってベアデット・コリーの長女が戻ってきて、僕に飛びついてからまた先頭に戻る。妻は勝手に進む柴犬に声をかけながら、のんびりと後ろから歩いてくる。
 心の中の塵は消えはしない。ゆっくりと底に沈んでゆくのを待つだけだ。そしてしばしの間澄んだ心の空間を通して、あの日の無心な自分を取り戻すだけなのかも知れない。研ぎ澄まされた感性に、生きる日々が夢と一体化していた幼い頃。人々はあの日を取り戻したいと願うことはないのだろうか。そんなことを雪のきらめきの中に思う